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名作発見 [読んだ本 / 好きな文章]


しろばんば (新潮文庫)

しろばんば (新潮文庫)

  • 作者: 井上 靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1965/03
  • メディア: 文庫
すっっっげーーー面白かった!!!
何年か前、この本の数ページだけ読んだことがあって、良さそうな本だなって少しだけ興味をもってました。んで、こないだ例によってブックオフ100円コーナーで発見&捕獲、なにげなく読んでみたら、これが面白いのなんのって。小説というものをこんなにも夢中になって読み進めたのは何年ぶりかだよ。ちなみにこれは児童向け文学らしいスね…。あらすじは上手くまとめる自信が無いから、新潮文庫の裏表紙に丸投げの方向で。著作権侵害おつ。
洪作少年は、五歳の時から父や母のもとを離れ、曾祖父の妾であったおぬい婆さんとふたり、土蔵で暮らしていた。村人たちの白眼視に耐えるおぬい婆さんは、洪作だけには異常なまでの愛情を注いだ。――野の草の匂いと陽光のみなぎる伊豆湯ヶ島の自然のなかで、幼い魂はいかに成長していったか。著者自身の幼少年時代を描き、なつかしい郷愁とおおらかなユーモアの横溢する名作。

RIMG2627.JPG大正期の伊豆の山村を舞台に、いろいろなエピソードを通じて主人公・洪作(通称洪ちゃ)の成長していくさまが描かれているわけですけど、作者である井上靖の自伝的小説ということもあって、それほどドラマチックな展開をするわけじゃないです。一緒に暮らしているババアと本家との折り合いが悪いだの、近所の友だちとこんな遊びをしただの、当時はまだ今ほどは普及していなかった鉄道に乗って親戚の家に泊まりに行っただの…。なのに、なぜこれほどまでにオレの心を鷲掴みにするのか。それは、ひとえに「みずみずしさ」、それに尽きると思います。

さるエリート一家の長男として生まれた小学生の洪ちゃが暮らすのは昔の田舎、親戚が多いのなんのって。つまり現代の「複雑な家庭」っていうのとは違う意味での(文字通りの)複雑さに読み始めは面食らったものの、そういった環境で、洪作が例えば複雑な人間関係に何を感じ、例えば自分を取り巻く里山の自然に何を思ったかが、透徹した筆致で丹念に書かれている。いわゆる「大人の事情」というやつを幼い子なりに怒ったり受け入れたり、淡い初恋(のようなもの)を、またその残酷な結末を味わう洪ちゃの心情が細かく細かく、それでいてベタベタしていない描き方がされている。洪ちゃが体験する話は、どこか暗い影をもつものが多いのだけれど、全体としては陰鬱にならないで、断片的ではあるにせよなぜかきらきらしていてみずみずしさをオレは感じるんスよ。上品なユーモアセンスのおかげもあるかもしれない。とにかく本当に上手い文章だと思う。

自分には田舎と呼べるような田舎は無いのに(てめえのことはどうでもいい)、まるで自分の故郷がこうであるかのようにさえ思わせる自然の描写とか、こんな友だちや先生がいたんじゃないのかと錯覚させるような本。ほんとにすごいなあ。ただ、お話を読んでいる最中は、井上靖の文章力構成力云々なんてことはこれっぽっちも考えませんでした。だって、『しろばんば』にのめり込んでニヤニヤしたりウルウルしながら(キモい!)、自分が洪作になりきっていたのだから。

なんかもう大絶賛です。でも、大絶賛するに値する本なんだもの、しょうがないじゃない。オレのヤスシ歴としては大学生の頃に読んだ『あすなろ物語』だけだったので、これからはヤスシをもっと読んでみることにしたよ。あと、どうでもいい話として、アマゾンのリンクで出てくる版の表紙、なんかダサい…。写真の昭和63年バージョンのほうが「文・豪!」っつう感じがして好きだな。

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和解 (新潮文庫)

和解 (新潮文庫)

  • 作者: 志賀 直哉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1949/12
  • メディア: 文庫

文豪つながりでもういっちょ。井上靖よりもさらなるビッグネーム、志賀直哉による『和解』です。これも昔から少し気になっていた(けどなかなか手が出ない)本でした。ただ、『しろばんば』が500ページ以上あるのに対して、こちらは100ページほどで薄いから、あっという間に読めると思う。

お話の内容としては、またまたこちらもいわゆる私小説というやつで、作者の志賀直哉の自伝的内容です。長年不和の状態にあった実父との仲直りを描いた作品。父親の記憶がほとんど無いせいか父子ものに結構弱いオレとしては、テーマ自体は面白そうなものの、実際読んだ後の感想としてはイマイチ…。これは、てめえの文学常識が足らねえんだよ馬鹿とのそしりをうけそうですけども、結局文庫本の最後にある「解説」を読むまで、そもそもなんで主人公すなわち志賀直哉と父親がここまで仲悪いのかがハッキリとは分からないんスよ。自分はそれがずっとひっかかっちゃって、クライマックスの「和解」シーンはまあちょっと鮮やかだなあとは思ったけども、全体的には小説を楽しんでいる感じはしなかったです。

全体の筆致がどうにもクールすぎて、けれどそれは『しろばんば』の感想で書いた「透徹」というのともちょっと違って、いつも主人公が自分や家族のことを完全に他人事のように考えているように感じちゃったのが原因かなあ。"小説の神様"に対してなんて何様のつもりだおまえはという感じですけど、これはおいどんが現代の小説に慣れすぎちゃっているからだろうなきっと。
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コメント 2

よめ

友達の安田さんの卒業論文がしろばんばでした。
私は読んだことないけれど、そういう話だったんですか。
私も漫画ばかりでなくて小説も読まなきゃね。
でも漫画読んじまう。
by よめ (2010-10-23 00:20) 

ビキ

うへー、その卒論読んでみたい!
安田さんナイスチョイス。

漫画好き良いじゃないスか。
こないだ言った『スティール・ボール・ラン』、いま16巻まで読んだんだけどかなり面白いです。
by ビキ (2010-10-23 02:31) 

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