私って、ほら、もともと粗悪品でしょ。ただのビニール人形だから。 [読んだ本 / 好きな文章]
こないだ感想文みたいな何かを書いたスティーヴン・キングの『ローズ・マダー』は上下巻を読み続けるのが飽きそうだった(え!? あんだけ面白いとか言ってたのに!)から、その2冊の間にこれを読みました。いしいしんじの「『ぶらんこ乗り』の前史時代、原石の魅力が煌く幻のデビュー短篇集」(裏表紙より)だそうで。
18話それぞれの短篇に下北沢だとか田町だとか霞ヶ関だとか、各エピソードの舞台となる東京の地名が掲げられていて、それをざっと眺めるだけで何だか楽しい。そして、それぞれの内容もバラエティー豊かで、不思議なものもあれば切ないものも、あるいは可笑しかったりちょっとゾッとするようなものも。この本、好きだな。
とりわけ気に入ったのは、古書店街で不思議なじじいと出会う「老将軍のオセロゲーム 神保町」、大海原を股にしてのロマンスを描く「クロマグロとシロザケ 築地」、捨てられたダッチワイフとの切ない話「天使はジェット気流に乗って 新宿ゴールデン街」、"先生"と呼ばれるホームレスとのほんわかした交流がテーマの「吾妻橋の下、イヌは流れる 浅草」の4つかしらん。他にも面白い話がもちろんあったし、やっぱこの人うまいなー。
さいごに、「老将軍のオセロゲーム」から好きな文章を。おまえ何かっつうとすぐ引用すんのな!
神保町ほど「内と外」のコントラストが鮮やかな場所はない。他人がいて、会話があって、太陽が照って風が吹く。そういう「外」を、「内」、つまり店の中ではまったく意識することがない。洋書専門店の二階にいたりすると、外で世界が終わってしまっていてもきっと気づかないだろう。核シェルターが欲しい人は古本屋で働くことだ。
本は違った世界への扉を開く、と小学校で国語の教師が口酸っぱく言っていた。たしかにその通りだ、とぼくは思った。そのかわり、表紙をめくると背後でもうひとつの扉が閉まる。本は「外」の世界を一時的にしろ滅ぼしてしまう。
古本は、それぞれ一冊がいろんな世界を滅ぼしてきた。兵器としての年季が、そこらの新刊本とは違うのだ。もはや「なにかのため」に書かれる実用書などは、兵器として用をなさない。
なんだか気になる本だわ。
by たろ芋 (2012-02-15 15:57)
言葉の選び方がいいよねー。
詩的かと思うと俗っぽかったり。でも哲学がある感じ。
「ぶらんこ乗り」も「麦踏みクーツェ」もお勧めです!
なんてさらっと初コメしてみたりしてます…
by macoto (2012-02-15 22:13)
>たろ芋氏
この本はオススメだよー。
各話いずれも、さらっと読めてじんわり深い。
>macoto氏
こんな辺境ブログにコメントをいただけるなんて、どうもありがとう!
いしいしんじの日本語はすごいよね。読んでいる側にすんなり入ってくるのに、その情報量が豊富というか。
ごめん、自分で何言ってんのか分かんないス。
by ビキ (2012-02-18 00:21)