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だれもが知っていて、だれも知らない女 [読んだ本 / 好きな文章]

数年前から気になっていたアメリカの作家、ジェイムズ・エルロイの小説を初めて読んだぜ。したら、とっても面白かった!! 決してお上品とは言えない、B級丸出しの低俗作品だとは思うけど、これだよ。ほんと、むさぼるように読んじゃった。

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お話の題材は1947年に起こった実際の猟奇殺人事件(現実には未解決のまま)。本作ではそれをボクサー上がりの刑事バッキー・ブライチャートが執拗な捜査で追いかけていくというもの。この小説の本筋であろう二転三転する謎解きの要素、つまり「エリザベス・ショートを惨殺した犯人は誰なのか」という点も十分に合格点だった(おまえ何様!?)けど、オレが感じたこの作品最大の魅力は、なんつうても主人公バッキーおよびその周辺人物、すなわち相棒の刑事と恋人に関する人物描写やね。切ないの。ハードボイルドという雰囲気とはまたちょっと違う、みんな自分の置かれた境遇にもがいているんだけど、それが上手く転がらないもどかしさ・じれったさっつうか。向こう側にいる人たちと自分(=主人公)たちとの根本的な差違、それを冷めた目でとらえつつもオレぁ熱くなるときは黙っちゃいないぜ! 的な。例によって何言ってんのか分かんなくてすいません。ともあれ、事件解決に対する主人公の泥まみれの執念と、事件そのものの猟奇性・グロテスクさと、エンターテイメント要素たっぷりなバイオレンス描写と、警察内部の腐敗(「ありがち」とか言わないで!)と、あの人やこの人に巣くう狂気と、大戦後まもない混沌とした時代性が一体となって、不思議な熱気をかもしだしてんのさ。この気迫、このテンション、すげえなあと思った。本が書かれたのは80年代みたいだけど。

ちなみに、オレクラスの低脳だとカタカナの人物名でやっぱりこんがらがった。ひとりの人物を指すのに、上の名前と下の名前とニックネームとが交互に出てくると、我が輩が誇る少容量メモリではさすがに処理しきれない。

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ところで、古本で買ったこの文庫本の表紙は被害者をもとにした画像だそうで。うーん、これが本物・本人なんだと言われちゃあどうしょうもないけど、いま売られている新しい版っぽいバージョンの表紙のほうが…美人…本そのものが魅力的つうか…完全なるゲス的観点で、まじ申し訳ない。でもね、裏表紙の要約文(?)は興味をもたせるのに充分な、かっちょいい文章だった。
1947年1月15日、ロス市内の空地で若い女性の惨殺死体が発見された。スターの座に憧れて都会に引き寄せられた女性を待つ、ひとつの回答だった。漆黒の髪にいつも黒ずくめのドレス、だれもが知っていて、だれも知らない女。いつしか事件は<ブラック・ダリア事件>と呼ばれるようになった――"暗黒のLA"四部作の、その一。
もちろんエルロイが書いたんじゃないことは分かっているけれど、「だれもが知っていて、だれも知らない女」っていうフレーズ、し び れ る !!

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そういえば、自分が面白いなと思った本を読んだあとはアマゾンのレビューで他の人の感想を探すことがあります。んで、この本もしかり。その中に気になったものが一つあったんだ。

■ アマゾンのレビューより
15 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0 暗黒面を取り上げ過ぎ, 2006/11/4
レビュー対象商品: ブラック・ダリア (文春文庫) (文庫)

本作を読んだのは5年以上前の事。これ程の話題作になるとは思わなかった。想像するに話題の原因は本作がLA暗黒4部作の第1作とされ暗黒面が(出版社によって?)強調されている事、物語が実際にロス空港の近くの空き地で起きた猟奇殺人(被害者の呼称がブラック・ダリア)をモデルにしている事、作者の母親が殺人の被害者になり、それが作品に反映されていると想像される事、デ・パルマ監督による映画化がされる事あたりか。

しかし、本作は「東電OL殺人事件」、「世田谷一家殺人事件」のように作品中でモデルとなった事件の核心に迫ろうとする意図はなく、主人公の黒人刑事を中心とした当時のロスの雰囲気を描こうとしたものである。実際、事件は未解決のまま終る。作者に猟奇趣味はない。戦勝後のロスの自由ではあるが退廃的なムードは良く描かれているし、人種差別やドラッグ等も当然のように描かれる。そうした雰囲気をダークと感じる人にはそれで良いと思うが、暗黒面だけがエルロイの持ち味ではない。

主人公の黒人刑事は、人種差別の壁もあって屈折した行動を取るが、次第に事件にのめり込んで行く。本作は主人公のある種の精神的成長物語とも取れる。その他の人物・背景に関する書き込みも多いので、色々な受け止め方ができると思う。ブラック・ダリアをモチーフに、当時のロスの人間模様を描いた秀作。

こ、こ、「黒人刑事」!?!? じ、じ、「人種差別の壁もあって屈折した行動を取る」!?!?
このレビューを初めて読んだとき、心底ビックリした。だって、本作を読んでいるあいだ、主人公のバッキー・ブライチャートが黒人だなんてオレはツユほどにも思っていなかったし、もしそんな大切な要素を見落としていたんならストーリーの意味合いがまるっきり違ってしまう。これはもしや、ジョシュ・ハートネット(=白人の俳優)が主演の映画を先に観てしまっていたせいで、自分の中で「主人公は白人だ」という刷り込みが出来ていたのかも…、などと慌てて文庫本のページをパラパラ繰るも、どこにも主人公が黒人であること、あるいはそれを匂わせるような記述は見当たらないんですけどー。それどころかさー、394ページ目に「ブライチャートとブランチャード。身をもちくずした二人の白人ボクサー。」っていう文を発見したんですけど!! は・く・じ・ん・ぼ・く・さ・ー!! はー、スッキリした。ちょっと粘着っぽいですかね、サーセン。

改めて言うまでもなく、間違いや思い込みというものは誰にでもあるものです。もちろん粗大ゴミ、別名オレもその例外ではございません。ただ、このレビューにおける「これ程の話題作になるとは思わなかった」だとか「それだけがエルロイの持ち味ではない」といった表現から感じられる、このレビュアーはよっぽど小説(少なくともジェイムズ・エルロイの著作)を読み込んでいらっしゃる文学通なんだろうなっていう印象と、ストーリーを左右しかねない重要な設定を思いっくそ読み違えている超絶読解力との間に、わたくしは強烈な断絶、深い闇のようなものを感じたということをお伝えしたいだけなのです。

さて、「暗黒のLA四部作」の一発目を読み終わって、次にエルロイを読むとしたら四部作の第2弾にあたる『ビッグ・ノーウェア』になるはず。いつになるのか分からないけど、次のも面白いといいなー。
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