『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
2007年アメリカ/監督:ポール・トーマス・アンダーソン
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/

20世紀初頭のアメリカ。ダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ・ルイス)は自ら掘り当てた金を元手に、石油採掘で成功することを目論んでいた。幼い息子H.W.(ディロン・フレイジャー)を連れ、田舎の農民を言葉巧みに言いくるめては土地を買収、油井を着々と築いていく。しかし、なりふり構わぬダニエルのやり方には反発も多かった。とりわけ、農民相手に新興宗教をひらく若きカリスマ牧師イーライ(ポール・ダノ)はダニエルと反目することとなり…というお話。

すんげえです。映画館でこういう作品を観られて心底嬉しかった。
ネタバレは無い(と思う)けど、先入観をもつのが嫌な人は、以下の感想駄文は映画を観た後に読んだほうが良いかもしれません。

158分間、最初のカットから最後のクレジットまでスクリーンに釘付けでした。それは主演ダニエル・デイ・ルイスの超絶演技はもちろんのこと、映画全篇を絶え間なくつらぬく緊張感のせい。なんかピリピリしてるんですよね。ちっともダレない。

物語は石油野郎ダニエルとインチキ臭い宗教家イーライ、そして息子のH.W.(それにしてもなんつう名前ですこと!)の3人を軸に、というかほぼこの3人のことばっかりなんですが、個々のシーンの質の高さのせいで飽きたりしない。映画冒頭の金採掘シーンなんかはセリフが無いのに「画」で語りつくすし、小高い丘から海を臨むシーンは息を飲むような美しさ。それに、ダニエルとイーライの"強欲vs偽善"3本勝負は絶対見逃せません。羞恥プレイまで含む超・総合格闘技ですから。

そしてラストシーン。なにそれー、面白すぎるんですけどー。作品の大部分はこのラストのための壮大な前フリなんじゃないかと思えるくらい。思わず吹きだしそうになったけど、まわりの人はまじめに観てたもんでなんとかこらえました。DVDになったときにちゃんと笑おうっと。
でも、笑いたくなるのと同時に背筋がゾクゾクもした。あの終わり方なんなんだよぅ。あんたやっぱり天才だ。

映画を観たあと、雑誌『映画秘宝』の特集ページを立ち読みしたら、そこではキューブリック先生の『シャイニング』(スティーブン・キング原作、ジャック・ニコルソン主演のホラー映画。名作!)との類似性を挙げていました。ははーん、確かに。

あっちは古いホテルにとり憑かれてトチ狂っちゃう男の話で、こっちは石油にとり憑かれちゃう人。また、ストリングスを多用した音楽も雰囲気が似てる。実際、監督のポール・トーマス・アンダーソンは「この作品はホラー映画だよ」なんて言ってるらしい。それがどこまで本気かはちょっと分からないけど、主人公の内面がどのように破綻していくかをテーマとしているのなら、それもうなずける。

けど、ほんとに破綻してるのかな?
主人公ダニエルは石油のことしか頭にないし、直情的で突如キレる。しかも「オレ以外の人間みんな嫌い」という困ったちゃん。身内にいたら絶対いやだ。でも、そのくせ人とのつながりを死ぬほど求めていて、それを自分ではどうしても認めたくない…という不器用さんでもあると思った。ここらへんのバランスが、いわゆるまともな人ならちゃんと分かってるんだけど、ダニエルにはどうしても出来ない。自分の欲に忠実じゃけぇ。だからこそ「神」の名の下に薄っぺらい信仰を説くイーライが許せない。分かる、分かるよー、君ぃ。

どんな人間にも欲があるもの。それをおおっぴらにするかしないかの違いだ。欲しいものを欲しいと言って何が悪い!
そんな主張をする人は憎たらしいけど、そのせいでたまーに見せる人間的な面が普通の人のそれよりも何倍にも良く見えるの法則。これがこの主人公から目を離せない理由の一つである。か、どうかは知らない。

ところで、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』という邦題はいかがなものか。
邦題はなるべく原題から変えるべきではないという一派(?)に僕も属するのですが、今回のはニッポンジンの舌には語呂が悪いし、なんたって意味がピンとこない。「血が出るだろう」て…(上述の『映画秘宝』では「血ィ見るど」とあった)。もしかしたらネイティブの人にはカッチョいい響きなのかもしれないけど、ファッキンジャップ(©北野武)のオレにはイマイチなんですよ。あ、「blood」は「石油」をも暗示しているのだ!っていうのはナシで。それは拡大解釈じゃないかなぁと思うのです。

例えばこんなのはどうかしらん。『流血!』…だめだ、Vシネマっぽい。じゃあ、原意とは離れるけど『石油にかける情熱』…プロジェクトX?やっぱり『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で正解のようです。

読みづらい長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。迷わず観ろよ、観れば分かるさ。