自分が好きな文章を突発的に、かつ無目的的に紹介するコーナー。オレが「○○のコーナー」と言うとき、それはもう間違いなく、はてなダイアリー「おれはおまえのパパじゃない」の影響、というかパクリです。ごめんなさい。

 君は、水が酸素と水素からできていることは知っているね。それが一と二との割合になっていることも、もちろん承知だ。こういうことは、言葉でそっくり説明することができるし、教室で実験を見ながら、ははあとうなずくことができる。ところが、冷たい水の味がどんなものかということになると、もう、君自身が水を飲んでみない限り、どうしたって君にわからせることができない。誰がどんなに説明してみたところで、その本当の味は、飲んだことのある人でなければわかりっこないだろう。同じように、生まれつき目の見えない人には、赤とはどんな色か、なんとしても説明のしようがない。それは、その人の目があいて、実際に赤い色を見たときに、はじめてわかることなんだ。―――こういうことが、人生にはたくさんある。


吉野源三郎 『君たちはどう生きるか』