この季節にぴったりかも

歩いても 歩いても [DVD]

2007年日本／監督：是枝裕和

• 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
• メディア: DVD

失業中の良多(阿部寛)は、再婚相手のゆかり(夏川結衣)とその息子を連れて、実家へと帰郷する。その日は十数年前に亡くなった兄の命日だった。姉(YOU)夫婦らも集まる中、頑固者の父親(原田芳雄)や明るい母親(樹木希林)と久しぶりの食事をする良夫。夏の夜は更けていき、家族それぞれの秘めた想いが少しずつ明らかに…というお話。

こんな良い映画を撮りやがってちくしょうめ! 泣いちゃったじゃないかよう!
すいません、取り乱しました。でもでも、ほんとに良かった。「面白かった」っていうのとはちょっと違って、「良かった」。最近の邦画なんてアイドル万歳ものかテレビドラマの延長かのどっちかでとにかくくだらねえよバーカ、と声には出さずとも(あ、言っちゃった!)、ちゃんと観てもいないくせに心のどこかで低く見ているこのおっさんの横っ面を引っぱたいてくれてどうもありがとう。

まずね、俳優たちの演技がみんな上手い。特に樹木希林がすごい。もう自然体を超えた何かを持っていて、お母さんの複雑な心境を見事に表現してた。オレがこの映画にこんだけ感動したのも、樹木希林が演じていたからこそかもって思えるぐらいでした。中盤の蝶々のシーンやばい。
阿部ちゃんも、亡くなった兄や両親に対していろんな想いを抱える役にぴったりだったし、夏川結衣や芳雄ちゃんも良かったと思う。

そして、役者たち以上に素晴らしかったのは脚本でした。書いたのは監督の是枝さんで、恥ずかしながら彼の映画を観たのはこれが初めてだったんだけども、話の進め方とか会話の構成とか絶妙な「間(ま)」とか、ほんとすごいなーって。場面はほとんどが両親の住む実家だけで展開されて、単調になるかしらと思いきや、ところがどっこい。ちいとも飽きない。阿部ちゃんとその奥さんや姉さん世代、芳雄ちゃんたち両親の世代、そして阿部ちゃんの息子世代の３つそれぞれの心情を重層的かつ繊細に描きやがって、(自分の年齢的なものもあるんだろうけど)そのいずれにも共感してしまう。
テーマは確かに明るくはないかもしれない。むしろ家族のギスギスした感じをもろに描写してる。でも、ところどころ、というかしょっちゅう笑えるシーンをはさんであって、そのテンポが絶妙だし。上手いなあと思う。

さらにさらに、いまダラダラ書いてるような技巧的な面は置いといて、つうかそれ以上に、つうか何はなくとも、描こうとしてる主題が良いやね。
決して後ろ向きに考えるわけではないにしろ、みんながみんな思い通りの幸せな人生を送ってるわけじゃあない。なんてことは、このボンクラに言われなくとも皆様が分かってらっしゃるとおりでございます。この映画は、そういったほろ苦さを受け止めるような何かを持っている。ような気がしなくもない。わけでもなくもない。

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